ウェブデザイナーのための課題深掘りツール:Why-Why分析と特性要因図でユーザーの根本課題を見出す
ウェブデザインにおいて、ユーザーのニーズに応える質の高いプロダクトやサービスを生み出すためには、表面的な課題解決に留まらず、その根底に潜む真の課題を特定することが不可欠です。新しいアイデアの創出やチームでのブレインストーミングにおいても、課題設定の質がアウトプットに大きく影響します。
この課題を深く掘り下げ、構造的に理解するための思考ツールとして、Why-Why分析(なぜなぜ分析)と特性要因図(フィッシュボーン図)は有効な手段となります。これらのツールは、複雑な問題の原因を系統的に探り、本質的な解決策へ導く手助けをします。
ウェブデザインにおける課題深掘りの重要性
ユーザーが「使いにくい」と感じるウェブサイトやアプリケーションには、操作性の問題、情報設計の不備、あるいは期待とのギャップなど、様々な要因が考えられます。これらの表面的な問題に対処するだけでは、ユーザーの満足度を根本的に高めることは難しい場合があります。真に価値あるデザインを提供するためには、ユーザーが抱える行動の「なぜ」を問い、その背景にある心理や状況、そして根本的なニーズを深く理解することが求められます。
Why-Why分析と特性要因図は、このようなユーザーの行動や感情の裏にある潜在的な原因を探り出し、デザイン戦略や機能開発の方向性を明確にするための強力なフレームワークです。
Why-Why分析(なぜなぜ分析):根本原因を突き止める思考法
Why-Why分析は、ある問題や事象に対して「なぜ?」を5回程度繰り返すことで、その根本原因を特定しようとするシンプルな思考ツールです。問題の深層を探ることで、表面的な原因にとらわれずに、本質的な解決策へと導きます。
Why-Why分析の概要
この分析は、問題が発生した際に、その原因を問い、その原因がなぜ発生したのかをさらに問い続けることで、連鎖的に原因を深掘りしていく手法です。最終的には、具体的な対策を講じることが可能な、根源的な問題点にたどり着くことを目指します。
ウェブデザイナーにとっての活用メリット
ウェブデザイナーにとって、Why-Why分析はユーザーリサーチで得られた情報や、ユーザーテストで発見された問題点に対して有効です。ユーザーが特定の機能を使わない、期待通りの行動をしてくれないといった事象に対し、「なぜそうなるのか」を繰り返し問うことで、ユーザーの真の動機や課題、あるいはシステム側の根本的な欠陥を発見する手がかりとなります。
具体的な使用ステップ
- 問題事象の特定: まず、分析したい具体的な問題や現象を明確に定義します。
- 例: 「ユーザー登録ページの完了率が低い」
- 「なぜ?」を繰り返す: 定義した問題に対して、「なぜその問題が起きているのか」を問いかけ、その答えを次の質問の対象とします。これを5回程度、あるいは根本原因にたどり着いたと感じるまで繰り返します。
- なぜ1: なぜユーザー登録ページの完了率が低いのか?
- → ユーザーが途中で離脱しているから
- なぜ2: なぜユーザーが途中で離脱しているのか?
- → 入力項目が多く、手間に感じているから
- なぜ3: なぜ入力項目が多く、手間に感じているのか?
- → アカウント作成とプロフィール情報を同時に求めているから
- なぜ4: なぜアカウント作成とプロフィール情報を同時に求めているのか?
- → プロフィール情報が揃わないと機能提供ができないと考えているから
- なぜ5: なぜプロフィール情報が揃わないと機能提供ができないと考えているのか?
- → サービス開始時に収集すべき情報が明確に定義されていなかった、あるいは過剰な情報収集を設計したから
- なぜ1: なぜユーザー登録ページの完了率が低いのか?
- 根本原因の特定と対策: 繰り返しによって導き出された最後の「なぜ」に対する答えが、根本原因に近いと判断されます。この根本原因に対して、具体的な対策を検討します。
- 例: 根本原因「サービス開始時に収集すべき情報が明確に定義されていなかった」。
- 対策: 「ユーザー登録とプロフィール情報入力を分離し、最低限の情報でアカウント作成を可能にする」「プロフィール情報はサービス利用後に段階的に収集するUXを検討する」。
特性要因図(フィッシュボーン図):複雑な原因を構造化する
特性要因図は、ある特定の「結果」(問題や課題)に対して、影響を与えていると思われる様々な「要因」を、大骨、中骨、小骨の形で魚の骨のように体系的に整理する図です。問題の全体像を把握し、多角的に原因を洗い出すのに役立ちます。
特性要因図の概要
「結果」を魚の頭に見立て、そこから太い線(大骨)が伸び、さらにそこから中骨、小骨と細分化された要因が枝分かれする形で描かれます。これにより、原因と結果の関係が一目で分かり、チームでの議論を活性化させることができます。
ウェブデザイナーにとっての活用メリット
ウェブデザイナーが直面する課題は、単一の原因で発生することは稀であり、多くの場合、複数の要因が複雑に絡み合っています。例えば、ウェブサイトのエンゲージメントが低い、特定機能の利用率が上がらないといった問題に対し、特性要因図を用いることで、ユーザー、システム、コンテンツ、環境といった多角的な視点から原因を網羅的に洗い出し、それぞれの関係性を視覚的に整理できます。これにより、チーム全体で共通認識を持ち、効果的な解決策を検討することが可能になります。
具体的な使用ステップ
- 結果(解決したい課題)の明確化: 図の右端に、分析したい具体的な「結果」を記述します。
- 例: 「ウェブサイトのエンゲージメントが低い」
- 大骨(主要な要因カテゴリ)の設定: 結果に影響を与えるであろう主要な要因のカテゴリを大骨として書き出します。ウェブデザインの文脈では、以下のようなカテゴリが考えられます。
- 例: ユーザー、コンテンツ、システム、デザイン、環境
- 中骨・小骨(具体的な要因)の書き出し: 各大骨に対し、「なぜこの結果が起きているのか」を問いかけながら、具体的な要因を中骨として書き出します。さらに中骨から小骨として詳細な要因を書き出します。チームでブレインストーミングを行い、多様な意見を募ることが重要です。
- ユーザー:
- ニーズとの不一致
- 利用経験の不足
- ターゲット層の誤認識
- コンテンツ:
- 情報が古くなっている
- 読みにくい文章
- 関連性の低い情報
- 価値が伝わらない
- システム:
- 表示速度が遅い
- エラーが多い
- モバイル対応が不十分
- 機能が複雑すぎる
- デザイン:
- レイアウトが見にくい
- ナビゲーションが不明瞭
- 視覚的魅力の欠如
- 一貫性のないUI
- 環境:
- 競合サービスの存在
- SEO対策の不足
- SNSでの拡散不足
- ユーザー:
- 図の分析と根本原因の特定: 作成した特性要因図を俯瞰し、特に影響力の大きいと思われる要因や、複数の要素が絡み合っている箇所を特定します。議論を通じて、具体的な対策を講じるべき根本原因を絞り込みます。
Why-Why分析と特性要因図の比較と使い分け
| 特徴 | Why-Why分析 | 特性要因図 | | :--------- | :---------------------------------------------- | :----------------------------------------------- | | 目的 | 特定の事象に対する単一の根本原因の深掘り | 複雑な結果に対する多角的な要因の網羅的な洗い出し | | 適した状況 | 具体的な問題が発生し、その原因を深く探りたい場合 | 複雑で多くの要因が絡む問題の全体像を把握したい場合 | | 難易度 | 比較的シンプルで個人でも実践しやすい | チームでの議論やブレインストーミングに適している | | 視覚性 | 構造化されたリストに近い | 視覚的に全体像を把握しやすい | | 強み | 問題の本質を追求し、シンプルな解決策に繋がりやすい | 多角的な視点から原因を漏れなく洗い出せる |
連携活用による効果の最大化
Why-Why分析と特性要因図は、単独で利用するだけでなく、組み合わせて活用することで、より深い洞察と効果的な問題解決を可能にします。
- 特性要因図で洗い出した要因の深掘り: 特性要因図で多くの要因を洗い出した後、特に重要と思われる特定の要因を選び、Why-Why分析を使ってその根本原因をさらに深く探ることができます。
- Why-Why分析で特定した根本原因の構造化: Why-Why分析で最終的に特定された根本原因を、特性要因図のより詳細な要因として配置することで、問題全体の構造の中でその根本原因がどのような位置づけにあるのかを明確にできます。
例えば、「ウェブサイトのエンゲージメントが低い」という結果に対して特性要因図を作成し、「コンテンツの価値が伝わらない」という要因を特定したとします。この「コンテンツの価値が伝わらない」という中骨に対し、さらにWhy-Why分析を適用することで、「なぜ価値が伝わらないのか」を深掘りし、その根本的な原因(例: 「ターゲット読者の共感を呼ぶ言葉選びができていない」)を見つけ出すことができます。
まとめ
ウェブデザイナーがユーザーに真に価値ある体験を提供するためには、表面的な問題解決に終始せず、その背後にある根本的な課題を見つける洞察力が必要です。Why-Why分析と特性要因図は、そのための強力な思考ツールとして機能します。
Why-Why分析は、一つの問題事象を深く掘り下げ、その根源的な原因を特定するのに役立ちます。一方、特性要因図は、複雑な問題を取り巻く多岐にわたる要因を網羅的に洗い出し、構造化するのに適しています。これらのツールを状況に応じて使い分けたり、組み合わせて活用したりすることで、ユーザーの潜在的なニーズや、プロダクトの真の課題を明らかにし、より効果的で持続可能なデザインソリューションの創出に貢献します。チームでのブレインストーミングや課題分析の機会に、これらのツールの導入を検討することをお勧めします。